内発的動機づけと外発的動機づけ:絵を描き続けるモチベーションについて検討する

モチベーションを保つ方法を紹介

この記事の要約

  1. 動機づけには「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の二種類がある
  2. 「外発的動機づけ」は「内発的動機づけ」を下げる場合がある。要するに他人(外発)から「ご褒美」をもらうために行動していると、自分(内発)の意志でその行動をする「やる気(モチベ)」が下がるというわけだ。褒美をもらうためだけに行動する分にはいいが、褒美をもらえなくなったときに自分の意志で何かをする気が下がってしまうのは確かに問題かも知れない。たとえばお金をもらってイラストを描いてしまうと、お金をもらえないのになんで個人的、自主的に絵を描くんだ?と自問自答する場合が思い浮かぶ。このようなケースでは絵を描くこと自体が嫌いになってしまうケースも考えられる。そうした解決策としては、他の要素(報酬ではなく達成感や人とのつながり、純粋な楽しさ等)からモチベを引き出したりする必要がありそうだ。
  3. 「ご褒美」をもらうために行動するのではなく、行動した「後」に、サプライズ的に「ご褒美」を与えることは内発的な動機づけを下げにくいらしい。人を応援する場合に、物理的な報酬をあげると逆にその人の内発的なモチベを下げてしまう場合があるので、あげる場合でも「後」のほうが望ましいということになる。物理的報酬ではなく、「口で褒める(口頭)」といった行為は内発的動機づけを上げるという(ポジティブなフィードバック)。
  4. 本当に自分のやりたいことを動機づけする場合には、外部的動機づけよりも内部的な動機づけを上げるようにしたほうがいい。「もともと心からやりたくない行動(過酷な残業など)」を動機づけさせるためには外発的動機づけは有効かもしれない。「もともと心からやりたいとおもっていた行動(絵を描くこと)」などが「外発的(報酬)」にモチベを上げるようなシステムになってしまうと、「心からやりたい(内発的)」と思えなくなってしまう危険性がある。
  5. 余談だが、キャンプ動画で有名なヒロシが「もう山行きたくない、自分の家で寝たいですよ」などといっていた。これは趣味でキャンプを楽しんでいたが(自発的に楽しんでいた)、仕事でキャンプをすることになり(報酬をもらえるという外発的なモチベ)、とうとう嫌いになった(自発的なモチベが下がった)」といういい例だと思う(出典:キャンプ芸人なのに「もう山行きたくない」 ヒロシが衝撃告白「自分の家で寝たいですよ」(ヤフーニュース)
    )。

内発的動機と外発的動機づけ

内発的動機づけ

内発的動機づけ(ないはつてきどうきづけ,endogenous motivation/intrinsic motivation):ある行動をする意図(intention)が「個人」によって引き起こされていると認知すれば内的原因性(internal causality)であり、その内的原因性によって動機づけられている場合が内発的動機けとなる。Heider(1958)が構成し、deCharms(1968)やDeciが発展させた概念。例えば面白そうだから絵を描いてみる、達成感がありそうだからパズルを解いてみる、というのは内発的動機づけである。Deci

外発的動機づけ

外発的動機づけ(がいはつてきどうきづけ):ある行動をする意図(intention)が「環境」によって引き起こされていると認知すれば外的原因性(external causality)であり、その外的原因性によって動機づけられている場合が外発的動機づけとなる。例えば報酬(お金など)をもらえるから絵を描いてみるというのは外発的動機づけである。外発的動機づけによって内発的動機づけが下がる場合があるという。例えばお金をもらうために行動した結果、自分から行動しようというような内発的動機けが下がったケースがある。心理学者理チャート・E・ニスベッドの実験では「上手に絵を描けたらご褒美をあげる」と伝えて、絵を描かせたグループは絵を描くことに興味を示さなくなったという(他のグループよりは長い時間絵を描いて楽しんだ(報酬をもらえるから)が、数週間後に絵で遊ばせると、ご褒美がない場合には絵を描くことに興味を示さなくなった)。Deci(エドワード・E・デシ)によれば、外から与えられる動機づけは創造性や責任感という点で内発的動機づけに劣るらしい(自己決定理論)。

内発的動機づけの尺度について(どのように内発的動機が形成されるのか?)

挑戦、好奇心、習得

後で検討するdeciの他に、Harterという人や桜井茂男さんなど、さまざまな人が「内発的動機」の定義づけに苦心しているようです。論文を見つけてきましたので、参照してみたいと思います。この論文は「内発的ー外発的動機づけ測定尺度の開発(1985)、出典」というものです。

「Harter(1981)は,この尺度により測定されている内発的動機づけを「外発的な態度と対時する教室での学習および達成(mastery)への方向づけ」と定義と論文にはありました。

  1. 挑戦(challenge):困難な問題に挑戦する傾向
  2. 好奇心(curiosity):興味や好奇心により様々な問題に接近する傾向
  3. 習得(mastery):教師に頼らずに問題に取り組む傾向
  4. 判断(judgement):遂行した問題のできばえを自分が判断できる傾向
  5. 評価(criteria):遂行した問題の出来栄えを評価する基準が自分にある傾向

尺度というのがcha11enge,curiosity,masteryの3つの下位尺度(動機づけに関するもの)と,認知的評価に関係するjudgement,criteriaの2つの下位尺度(認知的評価に関するもの)だそうです。合計5種類の下位尺度が紹介されています。

好奇心、向上心、仲間
  1. 好奇心
  2. 向上心:有能さを追求する傾向
  3. 仲間の人々とのやりとりをする傾向

同じ論文で稲垣佳世子という人の尺度も紹介されています。尺度というより、内発的動機の構成要素ですね。

3の「仲間の人々とのやりとりをする傾向」というのは大事だと思います。こういうものを描いたんだ!私はこういう物を描いたんだ!というようなやりとりは内発的動機を上げるものだと思います。特にSNSのゆるいつながりはその例だと思います。

6つの観点
  1. 挑戦(challenge)
  2. 知的好奇心(curiosity)
  3. 達成(mastery)
  4. 認知された因果律の所在(perceived locus of causality)
  5. 内生的ー外生的帰属(endogenous-exogenous attribution)
  6. 楽しさ(enjoyment)

同じ論文で6つの観点が紹介されています。

4「認知された因果律の所在」とはDeciが内発的動機づけに及ぼす外的報酬の効果について論じた認知的評価理論ではもっとも重要な理論だそうです。これによれば、ある行動をする意図(intention)が「個人」によって引きおこされていると認知すれば内的原因性(internal causality)であり、「環境」によって引き起こされている認知すれば外的原因性(external causality)だそうです。内的原因性によって動機づけられている場合が内発的動機であり、外的原因性によって動機づけられている場合が外発的動機づけだということです。定義がきちんと提示されているので助かります。

5の「内生的ー外生的帰属」はすこし厄介です。論文によれば4の「認知された因果律の所在」とは別のアプローチをしようという考えからきているそうです。これによれば、ある行動をする時、その行動をすること自体に目的があると認知していれば内生的帰属(endogenous attribution)です。その行動をすることは手段であり、その行動をすること意外に目的があると認知していれば外生的帰属(exogenous attribution)です。先程と同じように、内生的帰属によって動機づけられていれば内生的動機づけ、外生的帰属によって動機づけられていれば外生的動機づけになるそうです。

このような視点で考えれば絵を描くこと自体が楽しいから絵を描くという場合は「内生的帰属」であり、友達に評価されたいから絵を描くという場合は「外生的帰属」になりますね。6で「楽しさ」がでてきますが、楽しいかどうかという感情が内発的動機づけと外発的動機づけの最も単純かつ有効な尺度であると紹介されています。

心理学者リチャード・E・ニスベットたちの実験

この図をつくってしまったので特に説明することがなさそうですね。重要なのは「もともと楽しくない行為」のモチベを上げるために外発的動機づけするというのは有効だということです。「つまらないと思えるような残業」をする際に、給料がもらえるから頑張ろうというモチベは有効ですよね。しかしもともと趣味で、ただ楽しいからやっていた「絵を描く」という行為に「外発的動機づけ」をしてしまうと、逆に楽しくなくなるというケースがあるということです。

この辺は難しいですよね。もともと絵が好きで、絵を仕事にしたいという方は多いはずです。絵を仕事にするからには、報酬が必要になります。つまり「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」がぶつかり合い、絵を描くことがだんだんつまらなくなってきた、けど仕事だから描かないといけないということになりかねません。

そういう場合は「内発的動機づけ」をとことん見直す必要があると思います。内発的動機づけは「楽しさ」だけではありません。好奇心、向上心、仲間とのつながりといったようなものもあります。ほんとうに絵を描くことを楽しめてれば、報酬は先ではなく後に心理的にくるはずです。つまり「楽しいことをしていたらおまけでお金がもらえるようになった」というような形が素晴らしいのではないでしょうか。いうならば棚ぼた理論、オマケ理論です。心理的に報酬を後付けできるようになるほど、内発的動機づけを高めるというのはなかなかいいのではないかと思います。

エドワード・L・デシとリチャード・M・ライアンによる「Intrinsic motivation」

書籍では紹介されていませんでしたが、もともと1975年に出版されたエドワード・L・デシとリチャード・M・ライアンによる「Intrinsic motivation」という本が元ネタだと思います。

1971年に発表された「The Effects of Externally Mediated Rewards on Intrinsic Motivation(出典)」で先にエドワード・L・デシが発表しています。邦訳はおそらく内発的動機づけに対する外部媒介報酬の効果です。

Results indicate that (a) when money was used as an external reward, intrinsic motivation tended to decrease; whereas (b) when verbal reinforcement and positive feedback were used, intrinsic motivation tended to increase.

出典

この文献の要約の引用です。この文献では学部生に対して実験を行ったようです。「お金が外部報酬として使用された場合、内発的動機づけが下がる(a)」とあります。つまりごほうびを与えられると逆にモチベが下がるということです。

一方で、「口頭の「強化」と正のフィードバックが用いられた場合、内発的動機づけは上がる(b)」ようです。これはご褒美(物理的報酬など)ではなく、口頭の強化(おそらく褒めたりすること?)のほうが内発的動機づけを上げるという趣旨なのだと思います。報酬が目当てで作業をする場合と、作業をした結果褒められたというのではモチベの上がり方が異なるということですね。

内発的動機づけとは、自分自身で決めてなにかをやるということです。たとえばお金をもらって絵を描く人が、お金をもらわない場合でも自主的(内発的)に絵を描くのか?という話です。お金をもらうと自主的に絵を描くようになりにくくなるということですね。絵を描いたら褒められた、絵を描いたらたまたま買い手がついたといったようなケースのほうが内発的なモチベを上げやすいということです。

オペラント条件付けとは

オペラント条件づけの意味

オペラント条件づけ(おぺらんとじょうけんづけ,operant conditioning):報酬や嫌悪刺激(罰)に適応して、自発的にある行動を行うように、学習することである。行動主義心理学の基本的な理論。アメリカの心理学者であるバラス・スキナーが考案したもの(出典)。

「強化(reinforcement)」は行動主義心理学の用語で、「条件づけの学習の際に、刺激と反応を結びつける手段または、それによって結びつきが強まる働きの事(出典)」だそうです。フィードバックとは「目標達成に向けたアクションの軌道修正をしたり動機付けをしたりするために、口頭もしくは文章を用いて行われる教育や指摘、あるいは評価のこと」らしいです。

「口頭の強化と正のフィードバック」という意味がすこしわかってきましたね。

正の強化、負の強化という言葉は同じく行動主義心理学で使われる用語です。「オペラント条件づけ(operant conditioning)」の説明の中で使われている用語のようです。オペラント条件づけはアメリカの心理学者であるバラス・スキナーが考案したもので、「行動強化のために強化理論を用いること」を意味するそうです。

出典

これはオペラント条件づけの説明の図のようです。強化には「正の強化(positive reinforcement)」と「負の強化(negative forcement)」の二種類があります。

正の強化

正の強化は「好ましい事象・刺激が行動の結果として提示され、それによって、その行動が増加する場合に起こる」そうです。たとえば企業が従業員に対して売上に応じて賞をあげるといったケースで、賞(たとえば賞金や商品)の存在が売上を増加させた場合です。この場合、正の強化がなされたということになります。営業活動を行い、その結果賞を獲得し、その獲得がさらに営業活動への動機づけとなっているケースです。まさにフィードバック(帰還、ある系の出力を入力側に戻す操作)していますよね。入力によって出力し、その出力がさらに入力にポジティブに影響を与えています。

イラストをお金にできるというのは「正の強化」の代表例ではないでしょうか。あるいは人に褒められるといった物ではない報酬もモチベになります。たとえばTwitterの「いいね」などは絵を描くモチベのひとつになりそうです。

言葉による報酬や物理的報酬は非常に効果のある正の強化子だそうです。上司や教師に褒めてもらうだけでも正の強化になるというわけですね。

負の強化

負の強化は「嫌悪的な事象・刺激が除去されたり、起こらないようにすることを目的として、その行動の頻度が増加している場合に起こる」そうです。たとえば企業が従業員に対して、金曜日までに割り当てられた作業を完了すると、土曜日は休暇をとることができるというケースです。この場合、土曜日に労働するということが負の強化子にあたるそうです。つまり、土曜日に働きたくないから金曜日までに仕事をきっちりと終わらせようとするわけです。その結果生産性が上がるそうです。

絵を描く際の「負の強化」とはなんでしょうか。絵を描くことで「嫌なこと」が起こらないようにすることができるケースです。人によって違うのかもしれません。絵を描いているときは嫌なことを考えずに済むひともいるかもしれません。

正の弱化

オペラント条件づけには強化と対照的な概念である「弱化」があります。意味は「ヒトや動物における何らかの周辺環境変化であり、それによってその動作・反応が将来再度発生する可能性を軽減させるもの(出典)」らしいです。強化と同じように、正の弱化と負の弱化があります。

正の弱化は「応答として刺激が起こり、その応答が将来同様の状況を起こす確率が減少させている場合に生じる」らしいです。

たとえば裸足でアスファルトを歩く(入力)と、痛みが生じ(出力)、アスファルトを裸足で歩きたくなくなります(入力の確率を減少させる)。

絵を描いて発表して、反応が全くもらえない、下手だと笑われたりした場合もそうだと思います。そうした応答は絵を描くというモチベを著しく下げる場合があります。「見返してやる」というモチベにつながる場合もあると思いますが、あまりそうした正の弱化が著しい環境に自分を置くのは好ましくないのかもしれません。

負の弱化

負の弱化は「応答として刺激の減少が起こり、その応答が将来同様の状況を起こす確率が減少させている場合に生じる」らしいです。

たとえば少年が門限を破ると親に携帯電話を没収される場合が例だそうです。門限を破る(入力)、携帯電話が使えなくてつまらない(出力)、門限を破らなくなる(入力の確率を減少させる)。

たとえば絵を描かなくなった途端に、友達と触れ合う機会が減るとします。この場合、絵を描かない(入力)、友達と触れ合う機会が減る(出力)、絵を描くようになる(入力の確率を減少させる)ということになるのではないでしょうか。絵を描くことでどのような「刺激の減少」が自分にあるのかを考えることがモチベにつながるかもしれませんね。

感想元のスレまとめ記事

やる気はあるのに描きたい物が無い場合にすること、モチベ、ネタ、才能

今回おすすめする書籍・参考文献

図解 モチベーション大百科


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