フロー状態とはなにか?絵を描くために必要なゾーン状態について検討する

フロー状態とはなにか

意味

フロー状態:遂行している活動に没入し、全意識がその活動を推敲するために働き、その活動をある瞬間から次の瞬間への連続した流れとして経験している状態(Csikszentmihalyi,1975;1900;2003)のこと。心理学者のチクセントミハイによって提唱された。ゾーン状態、ピークエクスペリエンス、無我の境地、忘我状態などともいう。ソフトウェア開発の分野では邪魔されないフロー状態に入ることをwired in、The Zone, hack mode,、software timeに入るなどという。プロのカードプレイヤーの間では集中力と戦略的認識が最高になったときを「playing the A-game”」というらしい。本を読んでいるとき、スポーツのプレイ中、音楽の演奏中、絵を描いている途中等さまざまな身体活動や精神活動の際に起きる。

フロー状態の特徴

  1. 「注意の集中」
  2. 「意識と活動の融合」
  3. 「自己意識の消失」
  4. 「コントロール感」
  5. 「時間感覚の変容」
  6. 「自己目的性」
  7. 「楽しさ」
  8. 「流れ感」

1:「注意の集中」とは

注意の集中:フロー状態にあるとき、注意はすべて当該の活動を行うのに必要な情報が得られる対象のみ向けられている

2:「意識と活動の融合とは」

意識と活動の融合:フロー状態では意識と活動が一体になっていて、活動の中に意識が没入している

3:「自己意識の消失とは」

自己意識の消失:フロー状態にある活動の最中は、自分についての意識が消失している(活動している自分自身を客体化することができないという意味で)。

4:「コントロール感とは」

コントロール感:フロー状態にあるとき、自分の活動そのものや活動に関わる対象や事物を思うがままにコントロールしているという感覚が得られる。

5:「時間間隔の変容とは」

時間間隔の変容:フロー状態にあるとき、通常の時間角とは異なった時間経過を感じる。

6:「自己目的性とは」

自己目的性:フロー状態にあるとき、活動を行うことそれ自体が目的であり、それ以外の目的や報酬を必要としない。

7:「楽しさとは」

楽しさ:フロー状態にあるとき、身体的または精神的にに大きな苦しさをともうなう様な活動であっても、フロー状態にあるときには楽しさや心地よさを感じる

8:「流れ感」

流れ感:フロー状態にある時、意識はあたかも水が流れるようになめらかに働いている

フロー状態に入る条件、方法

  1. 「達成目標の存在」
  2. 「課題の適度な困難度」
  3. 「フィードバック」

1:「達成目標の存在」

「達成目標の存在」:達成しようとする目標状態が明確であって、それだけ意識や心的機能の秩序性が高まり、フロー状態が発生しやすくなる

2:「課題の適度な困難度」

「課題の過度な困難度」:達成しようとする目標や課題の困難度は適度であることが望ましい

3:「フィードバック」

フィードバック:目標や課題の達成度についての適切なフィードバックが得られることがフロー状態の発生を促す

フィードバック(feedback)とはもともと制御工学で使われている用語で、「出力結果を入力側に戻し、出力側が目標値に一致するように調整すること」を意味するそうです。たとえばりんごの皮を剥(む)くマシンがあるとします。もし皮がむききれていない、すなわち赤い色が残っているりんごがある場合は、もう一度剥くという作業をさせるとします。

この場合、入力1(りんごの皮を剥く)、出力1(りんごの皮がむけていない)、入力2(りんごの皮を剥く)…ということを繰り返すということです。りんごの皮を剥く入力(feed)に”戻す(back)”ということで、feedbackというわけです。feedは入力という意味や、餌という意味があります。

このような制御工学から転じて、「求める結果とのずれを生んでいる原因を行動側に戻すことを、『フィードバックする』と表現する」らしいです。

「目標や課題の達成度についての適切なフィードバックが得られること」という意味がこれでわかります。たとえば「人に喜んでほしい」という目標をたてて「絵を描く」とします。この場合に得られる適切なフィードバックとはなんでしょうか。入力1(絵を描く)、出力1(人が喜ぶような絵や要素をつくれなかった)、入力2(絵の構成を変えてみる、技法を考えてみる、工夫して絵を描く)、出力2(人が喜ぶような絵を描けた)というような感じですね。

wikiのほうには心理学作家ケンドラチェリーという人の言及があります。それによれば、「直接的で即座のフィードバック(活動の過程における成功と失敗が明確で、行動が必要に応じて調節される)」そうです。つまり、今自分が魅力的な絵が描けているか、描けていないかなどといったことが絵を描いている過程において明確で、トライアンドエラー、入力と出力によって調整が繰り返されるということですね。

最初から成功が決まっているような行為ではこのようなフィードバックに欠けている(そもそも調整する必要がない)ので、2の項目である「課題の適度な困難度」が必要になってくるのかもしれません。それと同時に、「目標」が必要というのも関連しています。つまり1から3は相互に作用しあっているということですね。

ケンドラチェリーによるフローの構成要素への言及

ケンドラチェリーの言及は以下のとおりです(チクセントミハイがフロー経験の一部として挙げている3つの構成要素に対する言及)。

  1. 直感的で即座のフィードバック(活動の過程における成功と失敗が明確で、行動が必要に応じて調節される)
  2. 成功する可能性があると信じる(明確な目的、予想と法則が認識できる)
  3. 経験に夢中になり、他のニーズが無視できるようになる

チクセントミハイによるフローモデルの図

右上がフロー状態ですね。挑戦レベルが高いだけでスキル(能力)が伴っていないと不安な状態になります。たとえば比率が正しい自然な人間を描こうとしても、スキルが伴っていないと思うように描けません。比率が正しい人間の絵を挑戦レベルが「中」だとして、スキルが「低い」の場合は「心配」という精神状態になってしまいます。

フロー状態に入るためにはできるだけ挑戦レベルを高くして、スキルも高めないとだめみたいですね。

しかしどういうものが挑戦レベルが高く、あるいは低いかというのは人それぞれです。絵を描きはじめの初心者にとって自然に見える人間を描くというのは挑戦レベルが高い場合があります。中級者からすれば自然に見える人間は挑戦レベルが低い、あるいは中位と感じるかもしれません。このようにレベルは相対的なものです。

スキルが高いと挑戦レベルに関わらずリラックス、コントロール、フローといい状態が多いですね。一方でスキルが低いと、無感動、心配、不安と悪い状態が続きがちです。

たとえば私がテニス初心者だとして、錦織圭やナダルといったプロのプレイヤーに勝ちたいと思うとします。これは私からすれば「挑戦レベルは高い」になるわけです。しかしスキルレベルはとてつもなく「低い」ので、実際に戦ってもバカバカしく、勝てるかも知れないという要素もまるでなく、無感動になってしまうと思います(とはいえプロと戦えるだけでもある種の感動はあるとはおもいますが)。

絵を写実的に描くコンテンストがあると考えてください。あるいはキャラデザのコンペでもいいです。自分が採用されかどうかの挑戦レベルが高く、自分のスキルも高ければフロー状態に入れるかもしれません。しかし自分のスキルが低く、まるで勝負にならないと無感動、心配、不安といった状態で絵を描くことになります。こうしたものを考えると、気持ちだけではなくスキル(能力、技術)も必要だということがわかります。必ずということではありませんが、役立つことが多いはずです。

絵の技術と挑戦のレベルの話

前の記事にあった技術の四段階の話(1:知識がない、形が分からない 2:知識がある、形が分かる 3:魅力的に描ける 4:誰よりも魅力的に描ける)において、それぞれにレベルがあるのだと思います。初心者にとっては「かたちがわかるようになる」というレベルは「高い」はずです。一石二鳥で把握できるものではありません。中級者にとっては「形はわかっても魅力的に描けない」ということがあります。この場合、魅力的に描くということのレベルが「高い」になります。中級者にとって「かたちがわかるようになる」というのは前提なので、この場合は「低い」になります。

初心者 中級者 上級者 超上級者
【1】形がわかるようになる(知識をつける) 挑戦レベル(高) 挑戦レベル(中) 挑戦レベル(低) 挑戦レベル(低)
【2】魅力的に絵を描く(一分野のみ) 挑戦レベル(高) 挑戦レベル(高) 挑戦レベル(中) 挑戦レベル(低)
【3】魅力的に絵を描く(どの分野でも、あるいは誰よりも) 挑戦レベル(高) 挑戦レベル(高) 挑戦レベル(高) 挑戦レベル(中)

これらはざっくりとしたもので、必ずこうなるというわけではありません。知識や形がわからなくても魅力的に(かつ簡単に)描けるケースもあると思います。たとえば幼児が描く何気ない絵がとても魅力的だ、ということは往々にしてあります。この場合、頭で考えるより身体で考える幼児のほうがある意味では”身体的”知識があり、本当の形が分かっているということなのかもしれません。絵の技法はある意味では「こう見えるべきだ」といったような要素があるのも事実なので、物事は簡単ではありません。

初心者にとっては【1】~【3】のどれもが挑戦レベルが高いものだと思います。中級者になるにつれて絵の基礎的な知識がついていき、だんだんと挑戦の度合いが中くらいになっていきます。上級者になると知識はほとんどついていて、魅力的に絵を描けるようになることに挑戦していくようになります。超上級者にいたっては魅力的に絵を描けることは簡単で、魅力的かつ、だれよりも、どの分野でもといったある意味耽美的、唯美的な美の追求になっていくのかもしれません。

チクセントミハイによれば、難易度は客観的なものではなく、あくまで活動主体が認知した困難度だそうです。ようするにその人が難しいと感じるかどうかといった主観的、個別的な問題というわけです。

フロー状態の主体性と受容性について

スポーツをするとき、ゲームをするとき、絵を描くとき、創作活動をするとき、そうした状態で起きるフローを主体的なフローだとします。つまり自分が活動の主体となっているわけです。

チクセントミハイによれば、スポーツを観戦すること、ダンスや音楽、美術作品などを鑑賞すること、文章を読むこと、話を聴くことなどといった受容的な活動でもフロー状態は発生することがあるそうです。たしかに映画を見ているときや本を読んでいるとき、時間の感覚がなくなったりすることがありますね。いつのまにかもうこんな時間だ、というような経験があります。まるで一体化しているような感覚、主体と客体が一致しているような感覚ですね。自分が作品の中に溶けていくような感覚です。

フロー状態の長さについて

チクセントミハイによれば、長い時間のフロー状態(ディープフロー)もあれば、短い時間のフロー状態(マイクロフロー)もあるそうです。

たとえば1つの曲を演奏する間ずっとフロー状態が続いているようなものがディープフローだとすれば、ワンフレーズだけ口ずさむよな短いものがマイクロフローです。食事や会話といったごく短時間でもフロー状態が発生する場合があるそうです。

ベティ・エドワーズの右脳モードもある意味ではフロー状態であり、ある線を引くときだけフロー状態に入るといったこともあるかもしれませんね。絵の作品でも、あるものを参考にして見ながら描くときだけフロー状態に入るひともいれば、何も見ないで頭の中だけで描いているときだけフロー状態に入る人もいると思います。あるいは両方フロー状態に入れる人もいると思います。同じ作業でもある過程はフロー状態、ある過程はそうじゃない、といったように断続的な場合もありそうです。そうしたフロー状態に入れるかどうかは、先程の図でいうところの挑戦のレベルとスキルのレベルが関係しているかもしれませんし、モチベの問題といったような問題、騒音などの外部的な問題もあるかもしれません。

フロー状態と仕事の関係について(収入を目的とした場合にフロー状態に入れるのか?)

趣味や娯楽といった楽しむことを目的とした活動以外でもフロー状態が発生することがあるそうです。つまり、収入を得ることを目的とした場合にもフロー状態に入ることはあるそうです。

先日の記事(内発的動機づけと外発的動機づけ)では、報酬を目的として作業した場合、内発的動機づけが下がるといったケースがありました。内発的動機づけとは、「自主的に動機づけを行う」ということです。たとえば絵を自分が描きたいと思ったから、描く。絵を描くことが楽しいから、描くといったようなものは内発的動機づけによる行動です。しかし報酬を得るために描くといったものは「外発的動機づけ」による行動です。

チクセントミハイによれば(石田潤「フロー理論と内発的動機づけ論」による説明ですが)、こういった収入を目的とした場合でもフロー状態に入れるそうです。

考えてみれば、そもそも先日の内発的動機づけとは、報酬をもらえるという動機が報酬を目的とした作業の効率を下げる、というものではありません。むしろ報酬をもらえるという動機によって園児は他の報酬をもらえなかった園児より長い時間絵を描きました。しかし、その後報酬をもらえないような絵の作業に興味を示さなくなったということが問題なのです。

仕事は基本的に常に報酬をもらえるので、作業自体はモチベが常にあります。フロー状態の特徴に「フロー状態にあるとき、活動を行うことそれ自体が目的であり、それ以外の目的や報酬を必要としない。」というものがありましたが、これはフロー状態の特徴のひとつであり、フロー状態がすべての特徴を常に同時にもっているというわけではなさそうですね。

そもそも絵で食べている人は報酬を前提としているわけで、その人達がフロー状態に入れていないというのは考えにくいです。プロの絵師たちはフロー状態に入れる方が多いはずです。報酬を目的にしたとしてもフロー状態に入れるというのは納得がいきます。

前回も話しましたが、もともとどうして絵を描くか?という話で報酬をもらうためかそうじゃないかの二極化で考えるケースは単純化し過ぎだと思います。絵を描く人はさまざまな目的を複数持っていて、その目的の中で極端に報酬の目的の要素が多すぎると、フロー状態に入りにくい、無償のイラストはモチベが低くなるといったことが起こるのだと思います。

たとえば尾田栄一郎が報酬を目的とすることが大部分を占めているとは思えません(勝手な推測ですが)。読者を喜ばせたい、ワクワクさせたい、反応を見たいといった目的のほうが大きいような気がします。このようにクリエイターの目的はひとつではなく複数あるので、仕事の作業だからフロー状態に入れない、モチベに影響するとは一概には言えませんね。

感想元のスレ

効率よく絵が上達する方法とはなにか、練習方法、ヒント、例

参考文献

1:石田潤「フロー理論と内発的動機づけ論」,2015.2(掲載雑誌:人文論集)

2:フィードバックの説明(URL)

3:フロー(心理学)のWIKI(URL)

今回おすすめする書籍・参考文献

図解 モチベーション大百科


図解 モチベーション大百科

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