【パターン・ランゲージ】クロード・モネの絵はなぜ「いい絵」なのか

クロード・モネの「いい絵」

毎回多くを扱うと時間がなくなってしまうので、2~5作品を目安に継続して続けていきたいと思います。パターン・ランゲージはもうすこし詳細で、その形式も複雑だと思います。厳密なパターン・ランゲージというより、単純に「良い」と思ったパターン、理由をカテゴリー化していく試みです。これらはメモ段階です。ここからなぜ美しいと感じるかを詳細に検討し、パターン・ランゲージ化していきます。

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【パターン・ランゲージについてはこちらから】良い絵とはなにか?クリストファー・アレグザンダーから考える

  1. 【遠近感】近く見るより遠くで見たほうが美しいと感じる場合がる モネ『印象・日の出』
  2. 【形態】具体性より抽象性のほうが美しいと感じる場合がある 雲や霧が具体性を溶かす、印象で美を抽出する モネ『印象・日の出』
  3. 【色】青に赤が合うとと美しいと感じる場合がある 青空と太陽と雲のバランス 曖昧なグレーのものが強い色をぼかしてバランスを加える  モネ『『印象・日の出』』
  4. 【色】青と緑が合うと美しいと感じる場合がある 植物と大空のバランス やはり自然の形態に沿うと美しさを感じるのかもしれない モネ『散歩、日傘をさす女性』
  5. 【相似】人間に背景の色が投影されていると美しいと感じる場合がある  傘の色と緑地の色の一致 モネ『散歩、日傘をさす女性』
  6. 【光】逆光だと美しいと感じる場合がある 光の表現力 モネ『散歩、日傘をさす女性』
  7. 【形態】「動き」があると美しいと感じる場合がある 服のうねり、雲の解体性、分割性 モネ『散歩、日傘をさす女性』
  8. 【技法論】筆触分割、色彩分割 視覚混合(見る者の視覚の中で色が混ざる) 明度を落とさないように色を混ぜすぎない  輪郭線をぼかす ウェット・オン・ウェット さまざまな動きの変化を見せる自然をどうやって絵として表現するのか? モネ『ラ・グルヌイエール』

代表作『日の出』

『印象・日の出』1872年。油彩、キャンバス、48 × 63 cm。マルモッタン・モネ美術館。

モネは1874年に「第一回印象派展」で『印象・日の出』を発表しました。この展覧会は審査も報奨もない自由な展覧会だったそうです。

『アルジャントゥイユのレガッタ』1872年ごろ。油彩、キャンバス、48 × 75 cm。オルセー美術館

『アトリエ舟』1874年。油彩、キャンバス、50 × 64 cm。クレラー・ミュラー美術館

 

同じ「第一回印象派展」で発表されたといわれる『アルジャントゥイユのレガッタ』や『アトリエ舟』も素晴らしいです。個人的に水面というのもに美しさを感じます。自然の良さをなんとなく感じます。だからいいのかもしれません。

私は『アトリエ舟』や『アルジャントゥイユのレガッタ』より『印象・日の出』が好きです。なぜかはよくわかりません。日の出の優しい赤色というか、郷愁を感じるのかもしれません。この景色を直に見たいと思わせる幻想的な感じがあります。一番物が具体性を持っていない、というのもある意味ではポイントなのかもしれません。

たとえば人間は顕微鏡で見ると、ダニやらゴミやらがたくさん肌にくっついていて、ある種の気持ち悪さを感じます。絵でいえば「悪い」と感じることがあります。虫眼鏡で見ても毛穴だらけで気持ち悪いかもしれません。普通の距離で見ると、きれいだなと感じることがあります。遠くで見ると、ある種の美しさを別の面から感じるかもしれません。こうしたものは肉体的な距離です。もっと抽象的に、イメージで人間や港、空、太陽を捉えるとより美しく感じる場合もありそうです。雲や霧がそうした抽象性を深めてくれるのかもしれません。クロード・モネ的な感じで言えば「印象」の美しさであり、ある種の「美化作用」かもしれません。

『散歩、日傘をさす女性』

クロード・モネ『散歩、日傘をさす女』(1875) ナショナル・ギャラリー、ワシントン所蔵

これも個人的に好きな絵です。なぜいい絵だと思ったのか。なんとなく、青と緑のバランスが良いと思いました。青空と緑地の相性がいいのかもしれません。

服に青空の色がうつりこんでいるところも美しいと思いました。「良い」と思いました。WIKIでは「ドレスの白色が逆光の中で青紫色に染められ、戸外制作に特有の臨場感が生み出されている」とありました。「逆光」というのもポイントなのかもしれません。傘の色が緑で、自然の色とあっていることも「良い」と感じるのかもしれません。「相似」の良さなのかもしれません。

モネは1886年にも『戸外の人物習作』という作品を書いていますが、構図が似ています。しかし『散歩、日傘をさす女』のほうが良いと感じます。その理由は雲に「動き」があることや、服に「動き」があることも関連しているのかもしれません。

【技法論】筆触分割、色彩分割

モネ『ラ・グルヌイエール』1869年。油彩、キャンバス、74.6 × 99.7 cm。メトロポリタン美術館

絵には「筆触(ひっしょく、タッチ)」というものがあります。モネの絵はこの「筆触」が生々しく残っているそうです。たしかに水面に浮かぶ波紋のようなものは多くの筆触からなっているようにも見えます。見事にさまざまな色の筆触が組み合わさって水面が表現されています。

WIKIによればモネは「自然の中では、雲が太陽を遮ったり、風が水面を揺らしたりするたびに、物(モチーフ)の見え方が刻々と変化することに注目した」そうです。たしかに水面が揺れている場合、目の前の景色は頻繁に微細に変化します。ある水面を描いているとして、すこし目を離せばその水面の一部がもう変わってしまっているという具合にです。そうした変化をリアリズムとして描こうとすれば当時は大変な努力が必要とされたのかもしれません。今の時代では精巧なカメラで写し取り、その写真を見ながら描くということで「切り取られ、静止した波」を写実的に描くことはできるかもしれません。しかし人間の見た景色とカメラが写し取った景色は同じではないので、やはり実際に戸外で描くということに重要性があるのかもしれません。

絵具をパレットで混ぜないことは、色の明度を落とさないためにも必要なことであった。ある色を作り出すために複数の絵具を混ぜると、色の明度が落ちて画面が暗くなり、戸外の光の明るさを表現することができなくなってしまう。これに対し、原色の絵具をできるだけ混ぜず、限られた色数だけで、細かな筆触(タッチ)をキャンバスに並べると、見る者の視覚の中で色が混ざり(視覚混合)、明度も落ちない。こうした手法は、モネがルノワールとともに『ラ・グルヌイエール』を描いたころから確立していったものである。筆触分割または色彩分割と呼ばれる手法であり、のちに新印象派の画家たちがこれを科学理論に基づいて体系化することになったが、印象派の画家たちは感覚に基づいてこれを用いた

出典

刻々と変化するモチーフを捉えようとすると、絵の具を混ぜて調合したり、地塗りの上に重ね塗りしている余裕はなかったそうです。生乾きの絵の具の上に絵の具を塗り重ねる方法(ウェット・オン・ウェット)をモネは使いました。絵肌(マチエール)が画家の手の動きを表現しているそうです。絵の具をパレットで混ぜると明度が落ちるそうです。モネは明度が落ちると画面が暗くなり、戸外の明るさを表現できないと考えたそうです。

原色の絵具をできるだけ混ぜず、限られた色数だけで、細かな筆触(タッチ)をキャンバスに並べると、見る者の視覚の中で色が混ざり(視覚混合)、明度も落ちない」という箇所は特にポイントのように思われます。

また「輪郭線をぼかす」というところもポイントです。「絵を間近から見るだけでは、いい加減な混乱した筆の跡しか見えないが、2、3メートル離れて見ると、突然画面が息づいて見えてくるのであり、これは印象派の画家たちが発見した新たな視覚体験であった」らしいです。たしかに近くで見ると美しさが薄れ、遠くで見ると美しさが濃くなるような感じがします。

エルネスト・シュノー「埃と光の中のおびただしい数の群衆の動き、道路の上の馬車と人々の雑踏、大通りの木々の揺れ、つまりとらえがたいもの、移ろいやすいもの、すなわち運動の瞬間なるものが、その流れ去る性質のままに描き留められた」

ジョルジュ・スーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』

モネのときは直感的な色彩理論でしたが、新印象派では科学的に考え、点画描法として確立されたそうです。ジョルジュ・スーラは代表的な新印象派の人物です。個人的にはモネのほうが好きです。この絵を直感的に「良い」と感じない理由はどこにあるのでしょうか。どこか人工物的と言うか、無機質というか、アレグザンダーでいうと「生き生きとしていない」感じがします。

ポール・シニャックの『マルセイユの港』

新印象派のポール・シャニックの絵はわりとすきです。しかしモネのほうが好きです。やはり生き生きとしてる感じがしません。絵が踊っていないというか、なんというか。筆触を分割しすぎたというようなかんじというか。バランスというのがあるのかもしれません。

七色に彩られた尺度と角度、色調と色相のリズミカルな背景のフェリックス・フェネオンの肖像 (1890年)、ニューヨーク近代美術館

同じくこちらもポール・シャニックです。うーんといった感じです。

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