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映画と漫画の違いとは
パターン・ランゲージ
- 【越境】他の分野の技術を利用する
- 【相似】他の分野との共通点を見出し、利用できるか考える
- 【遠近感】顔にクローズアップすると人間の感情をよく表現できる。ロングショットの場合は周囲の環境を含めて説明することができる。人間の描画の割合を小さくすると、寂しさを表現できる。技法名【ショット】、大別【カメラワーク】
- 【技法名】コマ撮り(大別:カメラワーク)
- 【技法名】ショット(大別:カメラワーク)
- 良い絵とはなにか?クリストファー・アレグザンダーから考える(パターン・ランゲージについて)
すべての芸術は音楽に嫉妬する
ウォルター・ペイターという19世紀のイギリスは「すべての芸術は音楽に嫉妬する」といったそうです。
原文は「All art constantly aspires towards the condition of music.(『ルネサンス』の「ジョルジョーネ派」)」です。「すべて芸術は絶えず音楽の状態に憧れる」と訳されることもあります。
ウォルター・ペイターの「To burn always with this hard, gem-like flame, to maintain this ecstasy, is success in life.(『ルネサンス』の「結論」です)」もすきです。訳は「こうした硬い、宝石のような焔で絶えず燃えていること、この恍惚状態を維持すること、これこそが人生における成功ということにほかならない」です。
音楽のよさとはなんでしょうか。音楽の特徴とは他の芸術手段のような「物質的な形」をもっていないことです。手にとって触れたり、目で見たり、匂いを嗅いだりできないものです。音楽は形がないからこそ人に伝わりやすく、多くの人に感動を伝えることができるというよさがあります。
もちろん文字には文字のよさがあり、絵には絵のよさがあります。たとえば『アンナ・カレニナ』という映画では「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」という文字を映像で表現することはあきらめたというエピソードがあります。
芸術の分類は、第7芸術として「絵画、彫刻、音楽、文学、舞踊、建築、演劇」という7つがあり、第八芸術として「映画」が挙げられることがあるそうです。
映画や漫画は芸術の分野を越境している
映画は1927年に有声映画、いわゆる「トーキー」が生み出されるまでは「無声映画(サイレント)」でした。世界最初の映画は1888年にルイ・ル・プランスが製作したとといわれる上映時間2秒の『ラウンドヘイ・ガーデン・シーン』だそうです。上の動画は有名なチャールズ・チャップリンのサイレント映画の「公債(1918年)」です。
現代の映画は他のすべての芸術、つまり「絵画、彫刻、音楽、文学、舞踊、建築、演劇」を越境して取り入れているのだと思います。もしウォルター・ペイターが現代に生きていれば、すべての芸術は映画に嫉妬すると言ったのかもしれません。それぞれの芸術はそれぞれの良さがあり、独自の表現があり、どの芸術がどの芸術より優れているといった議論は難しいです。しかし映画が他の芸術に比べて、分野を越境しやすく、自由度が高いというのは事実だと思います。
映画には文学的な「文字」を取り入れることもできますし、絵画的な「色彩」を取り入れることもできますし、音楽的な「BGM」を取り入れることもできます。舞踊をシーンの一つとして取り入れたり、建築物を映画のシーンのためだけに創ることもあります。演劇的な言い回しや方法論を映画に取り入れることもできるはずです。
漫画も映画と同じように、分野を越境しやすく、自由度が高い
漫画も絵画的な表現や文学的な表現を取り入れた芸術と捉えることができます。映画のように音楽を直接的に取り入れることはできませんが、漫画も映画と同じように分野を越境しやすく、自由度が高いといえます。そういった意味ではアニメーションは音楽を直接的に取り入れることができるので、映画とアニメーションはよく似ていますね。
映画やアニメーションが「分野を越境する手法」であるとするなら、映画の手法やアニメの手法を漫画にも応用できるはずです。
映画の演出と漫画の演出
塚本博義の「漫画バイブル5:コマ割り映画技法」という本で映画の演出と漫画の演出の共通点と違いについて述べられている箇所があったので紹介します。
映画 | 漫画 | |
【画面】 | 一定サイズ:ショットを編集してつなげて見せる | 変型サイズ:コマをつなげてページ単位で見せる |
【時間】 | 時間の流れと長さを放映時間で表現する。飛躍させてつなげると時空を超えることができる。 | 時間の流れと長さをコマのサイズと区切りで表現する。飛躍させてつなげると時間を超えることができる。 |
【台詞】 | 登場人物の肉声で流す。声色の調子で感情を表現する。 | フキだしと描き文字で声色を表現する。 |
【音響】 | 映像と同時に流す。ピッチ、音量、テンポを調節する。質感を表現する。 | 描き文字で書き表す。ピッチ、音量、テンポ、質感を表現する。 |
映画は基本的に画像を連続させて見せることで映像を形成しています。ショットとは「映画・テレビ撮影で、カメラが回転し始めてから止まるまでの一操作。また、その撮影されたひと続きの画像。カット」を意味します。コマは漫画の分野では「漫画を構成する一つ一つの絵」です。このようにして考えると映画と漫画は似ている面が多いです。
似ているということは、映画の技法が漫画の技法にも応用できるということです。
たとえば映画の「カメラワーク」が漫画の「構図」に使えたりします。カメラマンの立ち位置にたって、どのように切り取れば良いのか?と考えるのは映画でも漫画でも同じだということです。漫画家というものはカメラマンでもあり、演出家であもり、監督でもあり、デザイナーでもあります。映画では殆どの場合、複数の専門家が協力してひとつのものを構成しますが、漫画家は小規模であればあるほど、一人でほとんどの作業をこなすことになります。漫画を描くという作業はある意味では映画を撮る作業よりも越境性を求められる分野だといえます。
名前 | 説明・具体例:人間の場合 |
ECU(エクストリーム・クローズ・アップ) | 細部のショット 眼だけなど |
VCU(ベリー・クローズ・アップ) | 顔のショット |
BCU(ビッグ・クローズ・アップ) | 顔全部 |
CU(クローズアップ) | 頭の上から首まで |
MCU(ミディアム・クローズ・アップ) | バスト(女性の胸)ショット・チェスト(男性の胸)ショット |
MS(ミディアムショット) | ウエスト(腰)ショット |
NS(ニー・ショット) | 頭の上から膝まで 3/4ショット |
MLS(ミディアム・ロング・ショット) | からだ全体の上下に少し余裕のあるショット フルショット |
FLS(フルレングス・ショット) | からだ全体の上下に少し余裕のあるショット フルショット MLSと同じかそれ以上 |
LS(ロングショット) | スクリーン上に3/4~1/3を占めるようなショット |
ELS(エクストラ・ロング・ショット) | 超ロングショット |
XLS(エクストラ・ロングショット) | 超ロングショット ELSと同じかそれ以上 |
たとえば映画業界ではショットにもいろいろな種類があります。ショットとは「漫画バイブル4(18P)」によると「フレームにおさめる身体の切り方の名称」だそうです。どの範囲まで身体を映すかによって印象や効果が変わってきますよね。ロングショットになればなるほど、精神的に弱いことを示す場合もあります。遠くの背景で小さく体全体を映すようなシーンをイメージしてください。どこか寂しいという印象を与える場合があるはずです。
周りの状況を見せるべきシーンでは、人間の体だけではなく、周りの背景などを取り入れたほうが良いので、ロングショットになるのかもしれません。人間の感情を強調したいときは逆に、顔にクローズアップしたほうがいいといったものがあります。
今回おすすめする書籍
漫画バイブル(5)コマ割り映画技法編
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